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椅子から始まる介護のパラダイムシフト

椅子から始まる介護のパラダイムシフト

先の参議院予算委員会集中審議の質疑では、私がいい介護施設かどうかをどこで見るか、その一つのポイントとして「テーブルに椅子があるかどうか」であることを話させていただきました。

そのことについて、もう少し詳しく説明させていただきます。

 

介護施設に暮らす方には、日中ほとんどの時間を車椅子に座って過ごされる方を多く見かけます。

 

私たちの生活ではどうでしょうか。目的によって椅子を選び、立って、移動して、座って、また立って、生活行為の様々なシーンに様々な椅子があります。

 

食卓で食事をするとき、リビングでくつろぐとき、事務作業をするとき、目的のために移動しながら、それぞれの用途に合わせ、椅子を選んで座っているのではないでしょうか。

 

そこで生まれてくるのが移動・移乗です。車椅子から乗り移ったり、立ったり座ったり歩いたりです。

 

介護施設のテーブルに椅子がないというのは、車椅子一つですべて完結し、乗り移るために立ったり座ったりという機会の放棄です。車椅子から椅子に移乗する、介助しながら歩行器、つたい歩きで移動して座るなどの絶好の活動機会を奪っているように思えます。広い施設ほど車椅子が大活躍です。

 

生活の中には活動のチャンスが山ほどありますが、もしベッドと車椅子しかなければどうでしょうか?

 

ショートステイで歩けなくなった。脱水入院で歩けなくなった。ちょっと入院したら歩けなくなった。ケアマネさんから良く聞く言葉です。

 

自立していなくても介助という支援の武器があります。移動・移乗動作には「立つ座る歩く」といった活動の基本的動作が入っています。このことがあまりにもおざなりです。

 

一方で、椅子にはそれぞれの目的に合わせて適した構造になっています。

 

車椅子の場合、安定した座位姿勢を保持するため

一般的にお尻が椅子の奥に沈み込むようにシートに傾斜がついており、

骨盤が後傾し、背骨が後弯してしまいます。

そのため、食事の時には首に緊張が強くなり誤嚥のリスクが増大するなど、不適切な姿勢を生んでしまいます。

また、足がフットレストに乗ったままでは膝が骨盤よりも高い位置になりやすく、腹部を圧迫し、食欲の減退につながります。

 

食事をとるのに最も適した姿勢は、背もたれを使わず、骨盤がしっかりと立ち、少し前傾できる姿勢です。

また、前傾姿勢になった際に足で踏ん張ることができるよう、しっかりと足を床につけます。膝の角度が90度に近くなるように調整することも必要です。これで、下半身が安定し、上体を前後に動かしテーブルに近づけたり離したりすることができるようになり、自然な食事の動作ができます。皆さんもそうしています。

 

このように、食事の時には、食事を食べることに適した座位姿勢をとることが必要であり、それが食事動作への集中や誤嚥リスクの軽減など、食事の自立支援にもつながっています。食卓の椅子は食事がしやすいものを選ぶはずです。

 

座位が保てず、どうしても車椅子が必要であれば、シーティング、座位姿勢調整可能な車椅子が必要です。施設で多くみられる搬送用の車椅子ですべてを行うのは止めてほしいと思います。搬送用を使っていいのはちょっとだけ使う搬送の時だけです。

 

テーブルに椅子があるということは、移動・移乗動作、食事動作などの自立を日常生活の中から促進しており、気配りのできる自立支援に取り組んでいるという意味で「いい施設・頑張っている施設」であると紹介させていただきました。

 

日本は今、自立支援に軸足を置いた「介護のパラダイムシフト」を目標に掲げています。

その始まりはプロの現場である介護施設から。

まずは椅子を見直してみることで、施設介護を変えていく一歩を踏み出してみませんか。

(4月にオープンする特養施設で、高さの異なり、肘掛けがあるのも、ないものと様々な食卓椅子を並べています)